断絶の系統

Non Plus Ultra

世界の共有?

 前回の記事では「別の世界」とVRの可能性について書きました。そのような「別の世界」についてもう少し考えたいと思います。

 

 現在に至るまで私たちは世界を共有しています。言い換えれば、他人には「中身」がある前提で暮らしています(証明可能かはともかく)。これはインターネットの世界にも引き継がれ、SNS掲示板等の交流サイト、あるいは最近のVRChatもWeb上の場を共有する仕組みになっています。

 

 人が複数いるところには当然様々な「反応」が起こります。しかしそれらがすべて望ましいものというわけではありません。友情が育まれる一方で争いも生じます。集団どうしが対立するようになると最終的には戦争になります。地球上から争いがなくならないのは端的に言えば「地球に人が2人以上いるから」ということになります。

 

 もちろん争ってばかりもいられないので秩序が作られます。自分の行動を制限する代わりに相手の行動も制限することで、安全や利益が確保できます。ただし、すべての行動や権利を制限するわけではありません。集団が維持できる範囲での自由は認められます。例えば事業や労働で利益を得たり、交流する人を選んだりすることができます。また国により程度の差はありますが思想や信条、宗教などの内面の自由も認められています。そのような自由まで制限してしまうとむしろ社会が維持できないでしょう。

 

 

 このように、社会は統制と自由のバランスで成り立っています。しかし、それが私たちにとって理想かどうかはまた別の話です。秩序がある以上自分の行動・利益は制限されますし、一方自由が認められている範囲においては「敗者」となる可能性があります。利益を得ることができるというのは損をする可能性もあるということですし、自分が関わる人を選べることと自分が他人から選ばれないことは表裏一体です。それらは自己責任とされてしまうのですが、どこまで「自分の責任」なのでしょうか?突き詰めると「そのように生まれ育ったこと」が原因となり「自己」責任といえるか怪しくなってしまいます。この「自己責任」問題は生きている社会の秩序に反する傾向を持ってしまった個人にも言えることです。

 

 さて、このような「世界の共有」をVRのような「別の世界」でも続けるべきでしょうか?

 

 

 共有された仮想世界では何が起こるでしょうか?世界を共有している以上、各人を守るためには秩序が必要になります。何でもしていいというわけにはいかないでしょう。仮想世界では現実では不可能なために規制が必要なかったことも可能になるので、当然危険も増えます。また、アバターの容姿や能力を変えられるのは仮想世界の利点ではありますが、みんなが自分のアバターを好きなように変えていったらどうなるでしょうか。人間の好みにはある程度の多様性があるので一つに収束はしないと思いますが、一方で傾向もあることは事実ですし、マジョリティの中では個人差は縮まるでしょう。そこでは何がアイデンティティを保証するのでしょうか。

 

 仮想世界の利点は、世界をいくつも存在させられることです。つまり、個人専用の世界を作ることができます。オフラインゲームを拡張したようなもの、あるいは寝ているときの夢みたいなものです。その中では仮想世界技術の範囲内での「完全な自由」を与えられます。自分の容姿や能力を好きなように決められるし、そもそも人間である必要もないでしょう。

 

 もちろん独りぼっちのままの必要はありません。他者を再現して登場させることができます。あくまで再現された他者なので、権利に配慮する必要はありません。夢の中に実在の人物が登場して何が起ころうと、現実のその人には全く影響がないのと同じです。自分の利益だけを考えることができます。その世界の「主人公」が慎ましく生活しようが世界征服しようが他人には関係ありません、隣の人は別の世界で暮らしているからです。

 

 このような世界体系が技術的にいつ実現可能なのかは私にはわかりません。個々人に世界をどうやって供給するのか、その世界にどうやって本物と見分けがつかない「他者」を存在させるのかなど問題は多くあるでしょう。何でもできる世界、全てが思い通りになる世界がいつまで楽しいのかもわかりません(人為的な「難易度」設定が必要かもしれません)。また、このような仮想世界と現実の生活との両立は難しいでしょうし、ずっと仮想世界に没入し続けるためのシステムが必要になると思われます。

 

 

 今やインターネットの発達で世界のつながりは密になりましたが、同時に世界の断絶も鮮明に見えるようになっています。集合と排除が顕著になり、人間が分かり合えるという考えは霞みつつあります。人々が見ている現実は既に一つではありません。平和を実現するためには一人になる必要があります。

 

 ここまでは理想の、「夢の話」をしてきました。次回からはもう少し身近なところを扱っていきたいと思います。